題詠マラソン2005題詠マラソン2005 出詠作品 001:声 今か今か・・・気もそぞろにて待つ夜明け弾けるやうな産声を聞く 002:色 灰色の空より落ちる灰色の雪が地面に白く積もりぬ 003:つぼみ つぼみもつ水仙の茎食ひ千切り栗鼠はシュルルと逃げて行きたり 004:淡 青春のよき思ひ出じやないですか あなたに抱きし淡きあこがれ 005:サラダ サラダより漬物の方が食べやすい? それは老化の始まりですよ! 006:時 三月の海風時に冷たくて岬の桜咲きかねてをり 007:発見 「私は知りませんよ」と言ひし時嘘発見器の針大騒ぎ 008:鞄 ポケットに何でも入れて持ち歩く鞄を持つのが嫌ひなあなた 009:眠 「ばあちやんとお昼ねなんかしないもん」眠いトム君ハッと目を開(あ)く 010:線路 ストの朝線路を歩み出社しき 杳かに遠き日々となりしが 011:都 東京はやはり大都市 逃しても三分ごとに「電車がまいります」 012:メガホン 大声で私の名前を呼ぶあなた ノートを丸めメガホンにして 013:焦 グラタンにうすく焦げ目のつく頃に家族が居間に揃ひ始める 014:主義 「私は詮索しない主義なの」と言ひゐしあなたがあれこれと訊く 015:友 友の家の十七歳の雄猫が我を覚えて膝に乗り来る 016:たそがれ 旅先の黄昏時が寂しいと母はなかなか旅をせざりき 017:陸 簡潔の中に住みたしひろびろと 陸よりは海、海よりは空 018:教室 黒板に明日の日付を書き終へて夕陽差し込む教室を出る 019:アラビア 「ひらけゴマ!」アラビア人の顔をして自動ドアーを通りぬけたり 020:楽 楽しみに私の帰りを待ちくれし母のいまさぬ故郷の家 021:うたた寝 うたた寝をはじめし父の右手より本が一冊ばさりと落ちる 022:弓 大陸の東に弓の形なす日本列島堂々とあれ 023:うさぎ イースターのうさぎの形のチョコレートどこから食べてよいかわからず 024:チョコレート チョコレートの嫌ひな夫がにこにこと嫁の作りしティラミスを食む 025:泳 正月の寒中水泳に参加する 手を繋ぎ合ひワーッと走って 026:蜘蛛 ゆれながら朝陽に白く光りたり 露に濡れたる大き蜘蛛の巣 027:液体 「おい、液体!」と夫が催促するときの液体はいつも酒を意味する 028:母 「まるでらつこの貝叩きね」と仰向きて動けぬ母が歌を書きゐき 029:ならずもの ならずもの、例へばアイツ 河豚を食べころりと死にし落語の「らくだ」 030:橋 橋の下から拾はれし子と聞かされて家出したりき五歳の吾は 031:盗 Ichiro!が何時の間にやら盗塁し二塁に立てりにこりともせず 032:乾電池 乾電池二つでスッと生き返り玩具の猿がシンバル叩く 033:魚 「魚の目がこちらを睨んでいるみたい」尾頭付きがアンの弱点 034:背中 初めての遠足に行くアッチャンの背中のリュックに赤いお守り 035:禁 「そんなのは禁じ手だよ」と叱らるる 夫婦喧嘩にルールいくつか 036:探偵 「とてもよい方ですよ」などと探偵に嘘を言ひ合ふ近所付き合い 037:汗 涙も汗もごっちゃ混ぜになり泣くベビー 原因などはもうわからない 038:横浜 横浜の馬車道通りのルノアール もう十分だけ待つてみやうか 039:紫 昏れ遅きカナダの五月 夕光に紫濃ゆき鉄線が咲く 040:おとうと 「ねえさん」と我を呼ぶのを避けてをり同ひ歳なる義理のおとうと 041:迷 コイン投げどちらにするか決めやうよ 大差がないから迷ふのだから 042:官僚 官僚に「業者」と呼ばれる切なさをぐつと堪へてセールストーク 043:馬 走り終へ鞍をとりたる馬の背に一瞬ぽつと白き湯気立つ 044:香 どこよりかジャスミンの香の漂へり雨もよひなる夕方の道 045:パズル 「あの時の母の気持ちはこうだつた」遅れてわかるパズルの答 046:泥 泥んこの足を拭ひてやりながら鬼ごつこの首尾こまごまと聴く 047:大和 一瞬にメールの届き身近なり海の彼方のそらみつ大和 048:袖 訪問着を袖畳みする大胆さ カナダ生まれの二十四歳 049:ワイン 蝋燭の光チロチロ映りたりアニバーサリーのワイングラスに 050:変 ブランドの店が並びてすまし顔 すつかり変つてしまつた銀座 051:泣きぼくろ 泣きぼくろいつの間にやら消えてをり 幸せさうな友の目尻(まなじり) 052:螺旋 灯台のてつぺん目指し上りゆく急勾配の螺旋階段 053:髪 前髪を風に吹かせて一歳児乳母車より小さき手を振る 054:靴下 靴下が脱ぎつぱなしにされてをり夫がテレビを見てゐしあたりに 055:ラーメン おばQ漫画に出てゐし「小池さん」いつもラーメン啜りてゐたり 056:松 「松の葉」と熨斗袋に書き小遣ひをくれし伯母なりき・・・去年(きぞ)逝きたりき 057:制服 制服の紺の事務服脱ぐときに営業用の表情も解く 058:剣 その昔三亀松(みきまつ)の剣舞を見しことが今でも夫の密かな自慢 059:十字 二死満塁歓声の中指名されロペスは小さく十字切りたり 060:影 今にして思えば母の影響か未だに料理は薄味が好き 061:じゃがいも クリームをたくさん入れてじやがいもの冷製スープこつてり作る 062:風邪 夏風邪の治りかけたるアッチャンがしきりにせがむ花火見物 063:鬼 福は内!・・・鬼も内へと入り来よ 節分の夜は風が冷たい 064:科学 順序だてきちんと言はねば理解せぬ二流科学者 少し面倒 66:城 「天空の城」のやうなり わが住まふ十五階より霧を見下ろす 066:消 「失敗は私がカバーするから」と消しゴムがその身をすりへらす 067:スーツ 夢一つスーツケースに詰め込みて日本を離れき 若かりしかな 068:四 子の妻にヨーグルト種託したり四十日ほど留守にする間を 069:花束 花束を貰ひて帰ることもなく退職の日が静かに終る 070:曲 何曲も歌ひ続けてまだマイクを離さぬあなた 「先に帰るよ」 071:次元 異次元のあなたか話が噛み合はぬ 昔はこんな風でなかった 072:インク 納得の行かないままに購ひぬ プリンターより高きインクを 073:額 金額を聞きもしないで注文す あなたはいつもさうなんだから 074:麻酔 麻酔でもかけられしごと眠くなるひと日を海に過ごしたる夜 075:続 「継続は力ですよ」と励ますが継続だけでは力にならぬ 076:リズム 今日踊るタンゴのリズムの歯切れ良さ 君への想ひ断ち切りてゆく 077:櫛 赤塗りの姫鏡台の抽斗に母の遺品となりし柘植櫛 078:携帯 スイッチをこれで切ります 携帯も私も夜中は充電時間 079:ぬいぐるみ 自分より大きな熊のぬひぐるみ凝つと見つめてトムは泣きさう 080:書 目標を壁のボードに書き出しぬ せめて七割達成したい 081:洗濯 一歳のトムと駆けつこする時に心の洗濯はかどりてゆく 082:罠 熊を捕るウッチョといふ名の罠を見る秋田の山のマタギ部落で 083:キャベツ 巻きはややゆるめなれども裏庭に私の初めて育てたキャベツ 084:林 「バアチャンニナラヒマシタ」と林(りん)社長 ♪もーもたろさん♪を唄ひはじめる 085:胸騒ぎ 恐るるといふにあらねど飛行機に乗る前いつも胸騒ぎする 086:占 四席を独り占めして横になる 空席多き今日のフライト 087:計画 五月には完走をする計画の題詠マラソンいまだ終はらず 088:食 出されれば何でも食べるあなたなり 誉めも貶しもせずに黙つて 089:巻 「デザートのやうね」とアンが目を細む 少し甘めの出し巻き卵 090:薔薇 夫より薔薇を貰ひし日は杳か 結婚生活四十年経つ 091:暖 冷え初める秋の夜長の膝の上に暖房代はりのノートパソコン 092:届 すぐ傍に居るのに心が届かない 見えない壁の向かうのあなた 093:ナイフ 911の多発テロより機内食のナイフがプラスチックになつた 094:進 酌み交はしいつか酒宴に変はりゆく 葬儀の後の精進落し 095:翼 翼なき私の住まふ十五階鴎や鷺も目の下を飛ぶ 096:留守 留守電にあなたの残せしメッセージ消さずにおきて後でまた聞く 097:静 音高くパトロールカー過ぎし後町は一瞬静まり返る 098:未来 もうあまり未来は残らぬ私に過去が親しく語り掛けくる 099:動 「メキシコに出張中」の札があり動物園にパンダは不在 100:マラソン 後ろからヒタヒタ迫る足音に励まされつつ走るマラソン ジャンル別一覧
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